大黒天


豊作の神様

ありがたい大黒日本をふんまへる

 丸い頭巾を被り、右手に槌を持ち、左手で袋を背中にかけ、米俵の上に乗っている――というのが現代の大黒天の姿です。今でこそ、温和な顔をしていますが、元をたどれば大黒天はヒンズー教の破壊の神、シバ神です。
 シバ神は青黒い身体をもつ破壊神(『ニッポン神さま図鑑』)で、仏教に帰依すると、サンスクリット語でマハーカーラ(摩訶迦羅)と呼ばれるようになりました。マハーカーラには「偉大な黒い者」という意味があるそうです。

 仏教に帰依したマハーカーラは、飲食を豊かにする神として信仰されました。天竺の諸大寺では、厨房の柱にマハーカーラを守護神で祀れば、何人の僧が訪れても出す食事には困らないとされたのです。福の神というよりは荒々しい神で、台所に入ってくる邪悪を追い払うという性格を持っていたようです。

 台所の神マハーカーラを大黒天として日本に持ち込んだのは、天台宗の開祖最澄とされています。天台宗の多くの寺の厨房に大黒天が置かれるようになりました。この信仰が庶民にも広がっていき、台所に大黒天を祀っておけば食べることに困らないと信じられたのです。
 台所の神ということで、大黒天は主婦の守護神となりました。主婦の台所仕事が上手くいけばその家も安泰ですから、大黒天は更に家の守護神となり、広く信仰されるようになりました。

 こうした大黒天の出世の影に、大国主命(おおくにぬしのみこと)の存在があったことを忘れてはいけません。
 大黒天は大きな袋を持っています。中国の大黒天が小さな床机に腰をかけ、手に金の袋を持っていたことに由来すると考えられます。と同時に、大きな袋を背負って全国を回ったという大国主命と混同されたからとも言われています。
 大国主命は記紀伝説に登場する日本の神さまで、日本全国の神さまが集まるという出雲大社の主でもあります。神話の中で、大国主命は全国を修行して回ります。兄達の衣類のほか、一切のものを袋に詰めて担ぎ、全国を行脚したのです。大国主命は「ダイコクさま」とも呼ばれ、五穀豊穣の神として広まりました。
 その袋を担いだ大黒天の姿と、大黒=大国という語呂から、大黒天は大国主命と混同されて福の神として全国的に信仰されるようになりました。

 また、農業から商業へと庶民の生業が変化するにつれ、大黒天は商業神としての信仰対象にもなりました。振れば何でも出てくる小槌を持ち、何でもはいっている大きな袋を背負う姿は、無尽蔵の財宝と富の象徴だったのです。

 その小槌ですが、もう少し深い意味があるようです。槌(つち)は土(つち)に通じます。土というのは全てのもの(作物)を生み出すものです。その土はすなわち田(た)。宝(たから)は田から出てくる、つまり、宝は土(田)から出てくるという意味で、大黒天は豊作の神となりました。
 また、大黒天がかぶっている大きな頭巾は、それ以上、上を見ないためで、謙虚であるべきことの教えだそうです。さらに、大黒天が乗っている二俵の俵は、二俵で我慢せよという「知足(足るを知る)」の教えであるといいます。

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